上部消化管チーム-Upper digestive tract team-

チーフ

   
馬場 誠朗
(ばば しげあき)
   
講師    
     

スタッフ

二階 春香
(にかい はるか)
藤澤 良介
(ふじさわ りょうすけ)
熊谷 秀基
(くまがい ひでき)
助教 助教 大学院生
     

 診療の特色

食道がんについて胃がんについて

食道がんの特徴

食道は咽頭と胃をつなぐ頸部、胸部、腹部にわたる管上の臓器であり、気管、心臓、大動脈、肺など重要臓器に囲まれています。わが国で1年間に食道がんにかかる人は約9000人といわれ、胃がんにかかる人の10分の1ほどの数です。食道がんのおもな症状は、食べ物のつかえ感や食道の異物感、飲み込んだ時のしみる感じや痛みなどです。がんが大きくなると食道は狭くなり、食事がとれなくなり嘔吐や咳が増加し、体重減少もおこります。食道がんは早くから周囲のリンパ節への転移がおきやすく、また頸部、胸部、腹部へと広がりやすいため、進行の早いがんの1つです。

食道がんの検査と進行度(病気の進みぐあい)

食道がんの診断では、まず食道にできた病巣の深さや大きさ、位置を確認するため内視鏡検査やX線造影検査が行われます。内視鏡検査では病巣の組織の一部(2mmほど)を採取し、顕微鏡検査でがん細胞の存在を確認します(生検といいこれにより診断が確定します)。がんは食道の壁の一番内側の粘膜から発生し、徐々に深くおよんでいきます。深くなるほど進行がんとなり、食道の壁をつき破り大動脈や気管などの周囲臓器に浸潤することもあります(がんの深さを深達度とよびます)。もともとの病巣からがん細胞が別の部位に移動し病巣を作ることを転移といいます。転移はリンパの流れを介したリンパ節転移と血液の流れを介した血行性転移があります。リンパ節転移は原発巣から遠くに転移するほど、個数が多くなるほどより進行したがんになります。血行性転移はがんがもっとも進んだ状態で、臓器転移とよばれ肺や肝臓、骨などに病巣ができます。がんの深達度や転移の有無を調べるためにCT検査やPET検査が行われます。これらの検査を総合的に評価しがんの進行度を決定します。

食道がんの治療方法

食道がんの治療方法には、内視鏡治療、手術治療、放射線治療、抗がん剤治療などがあります。治療法の決定には、がんの進行度および患者さんのからだの状態から選択されます。

内視鏡切除は、転移のないごく早期の浅い病変に対し内視鏡を用いて食道の内側からがんを切り取る治療です。

手術治療は、がんが発生した臓器と転移している可能性のあるリンパ節を一緒にとってしまう治療です。胸部・腹部・頸部に手術操作がおよぶ大きな手術になりますが、根治性はもっとも高い治療法です。入院期間は2~3週間です。

放射線治療は主に身体の外から放射線をかけて、がんの撲滅を目指す治療です。治療は週に5回で、6~7週間かけて行なわれます(分割照射)。放射線治療は1日5~10分程度で、放射線治療のみの場合は通院治療が可能な場合もあります。

抗がん剤治療は薬を用いてがん細胞を殺す治療です。手術や放射線治療は決まった場所(切除範囲・照射範囲)だけに対する治療(局所療法)ですが、抗がん剤は投与すると全身に行きわたり、全身のがん細胞に対し効果が期待されます(全身療法)。現在食道がんで多く使われている抗がん剤は、シスプラチン、5-フルオロウラシル (5-FU)、ドセタキセル、パクリタキセルなどの薬剤で、これらを単独あるいは組み合わせて用います。
食道がん治療ではそれぞれの治療は単独で行われることもありますが、治療効果を上げるために組み合わせて行われることもあります。放射線と抗がん剤を同時に併用する放射線化学療法や手術の前後に抗がん剤を投与する補助化学療法などのように、局所療法と全身療法を組み合わせることで治癒率の向上が得られます。

 

抗がん剤治療後の手術療法

手術が難しいがんでも抗がん剤治療などを組み合わせることで治癒率の向上がえられます。また、初診時はは全く食事がとれない状態でしたが、腫瘍の縮小により食事が可能となり、栄養状態・体力を回復した状態で手術を受けることができました。

その他の治療

がんの進行や持病により臓器の働きが強く低下していて、上記のようながんに対する治療が困難な場合もあります。食道がんは物が通らなくなる病気であす。食事がとれなくなると体力は急速に落ち、点滴などによる栄養管理も必要となります。生活の質 (quality of life: QOL)をよく保つためには食べ物が通るルートを確保することが重要です。がんを治すための治療ではありませんが、食道ステントという食道がんによって狭くなってしまっている場所を円筒状の柔らかい金属によって広げる治療もあります。

治療法の選択では、私たちは専門家として最も相応しいと思われる治療をお勧めしていますが、自分が希望しない治療を無理に受ける必要はありません。どんなご相談もお受けします、自分で納得できる治療を選択してください。

当科での食道がん治療

当科では手術治療だけでなく抗がん剤治療、放射線治療をうける患者さんの治療にあたっています。早期病変では常に内視鏡専門の消化器内科医師の検査により内視鏡切除が可能かを評価し、可能な場合は消化器内科にて治療をします。内視鏡治療ができない病変では手術や放射線治療、抗がん剤治療のうちどの治療法、どのような組み合わせ、どのような順番がよいかなど、それぞれの治療の成績や長所・短所をご説明し患者さんと治療法について相談後、治療法を決定しています。放射線療法では、放射線をかける範囲、照射量などについて放射線科・頭頸部科とのカンファランスを行い治療プランを決定します。手術治療では医師・歯科医師・看護師・理学療法士・栄養士など他職種よる術前・術後のチーム医療が行われます。抗がん剤治療、放射線治療でも同様にチーム医療より副作用発生の予防や治療がおこなわれます。

食道がんの治療にはさまざまな選択肢があります。治療の効果や副作用の程度、全身状態の変化などで最適の治療も時期により変わる場合もあります。当科ではすべての治療法に関わっているため、患者さん一人一人に合わせた治療プランの決定や状況に応じた治療変更も臨機応変な対応が可能です。

食道癌の手術治療

胸腔鏡下食道切除術

食道癌の手術は,一般に開胸と開腹,更に頸部を切開して操作を行う大手術です.他の臓器に浸潤を疑わせる大きな腫瘍や,肺が癒着(くっついている)している方は開胸手術を行いますが,それ以外の患者さんには傷の小さな胸腔鏡(きょうくうきょう)の手術を行っております.我々は2003年より胸腔鏡下食道切除術を導入し,現在約7割の患者さんが胸腔鏡の手術を選択されております.開胸手術と比べた利点は,傷が小さいこと,開胸手術に比べて傷の感染が少ない点,術後の肺合併症が少ない傾向があります.お腹の操作も腹腔鏡補助下で行っており,小さな傷で術後の痛みが少なく,術後の早期離床がスムーズです.

胸部操作:4-5カ所の小さい穴(5mmと12mm)を開けて,細長い道具を使って手術を行います.

術中の傷の位置 術後の胸部の傷

 

多職種チーム医療による患者さんのサポート

手術治療は手術の質だけでなく,術前・術後のチームの総合力が重要です.患者さんが万全の状態で手術が受けられるよう,多職種のスタッフが総合的に関わるチーム医療で専門的なケアやサポートを行い,安全で質の高い医療を提供させていただいております.

手術が決まった時点から,医師だけでなく看護師,薬剤師,理学療法士(リハビリ),栄養士,歯科医師,歯科衛生士,言語聴覚士(摂食・嚥下),などが総合的に介入し,手術の準備を始めます.術前は全身状態の評価,手術のリスク評価,栄養状態,呼吸機能の評価等を行います.術前からリハビリテーションが介入し,体力や呼吸機能の向上をはかります.大きな手術に対する患者さんの不安は計り知れないほど大きいと思いますので,医師,看護師が中心に周術期のオリエンテーションを充実させております.

術後は手術からの回復に向けてチームが全力でサポートし,早期離床リハビリや嚥下リハビリなどで肺炎などの呼吸器合併症の軽減を得られております.術後の入院期間は約20日で,退院後も継続して外来でサポートさせていただきます.

胃がんとは

胃はお腹のなかではなじみの深い臓器と思いますが,ちょうど「みぞおち」のあたりにあります.口から入った食べ物はのどから食道を通って,胃に入ります.食べ物はある程度胃の中にたまってとどまり,胃液などの消化液とまざることで軟らかいお粥状になります.その後,少しずつ十二指腸に送り出されていきます.胃の入り口は「噴門(ふんもん)」といって,食道に食べ物が胸に逆流するのを防いでいます.胃の出口は「幽門(ゆうもん)」といって,食べ物を十二指腸に少しずつ送り出す調節をしています.

胃がんは胃の壁の一番内側にある粘膜から発生する腫瘍です.胃癌は早い段階では自覚症状がほとんどありません.主な症状は胃の痛みや不快感,違和感,胸やけ,吐き気,食欲不振などがあります.ただし,これらの症状は胃炎や胃潰瘍でも起こります.胃がんが大きくなって出血をすると,貧血症状や黒い色の便が出ることがあります.進行すると,食事がつかえたり,体重減少なども出てきます.少しでも気になる症状があれば,早めの受診をお勧めします.

胃がんの特徴

胃がんは男性に多くて,50歳ごろから増加して80歳代でピークを迎えます.2016年の日本の統計では男性で一番多いがんで,女性は乳癌,大腸癌に次いで3番目に多いがんです.男性ではこれまで減少傾向でしたが,2000年代はじめから横ばいになって,女性では減少傾向が続いています.2018年の時点で,死亡率は男性が肺癌について2位,女性は4位です.

胃がんの発生要因としては,ヘリコバクター・ピロリ菌の感染や喫煙があります.他には,塩分の摂取がリスク因子です.ピロリ菌というのは,胃に炎症や潰瘍を起こす細菌です.胃がんの方の9割近くはピロリ菌が原因でしたが,衛生環境の改善にともない,若い方の感染は減少傾向にあります.ピロリ菌感染率の減少と喫煙率の減少が胃癌の減少につながっている可能性がありますが,まだまだご高齢の方にとっては多い病気で,注意が必要です.ピロリ菌は,感染が見つかった方は,飲み薬で除菌することが可能です.

胃がんの診断①

現在日本では男女ともに50歳以上の方を対象にバリウム検査と内視鏡による検診を行っています.また,40歳以上の方はバリウム検査が可能です.ただし,症状がある場合,少しでも気になることがある場合は,検診を待たずに早めに医療機関を受診していただきたいと思います.早期癌の場合はほとんど症状がございませんので,検診やほかの病気の検査でたまたま見つかった方が多いのが現状です.症状が出てから受診された場合は,進行した状態で見つかることが多いのですが,早い段階で見つけることができれば,治療の選択肢も増えますし,治る確率も高くなります.ぜひとも定期的な検診を受けていただくこと,さらに,気になる症状があれば,できるだけ早く受診していただくことをお勧めします.

胃がんの診断②

胃がんを確定するためには,胃カメラと呼ばれている,内視鏡検査を行い,病気の部分の組織をつまんできます.これを生検といいます.その組織を病理検査にまわします.顕微鏡で組織を詳しく調べて,がん細胞があるかどうかの診断をつけます.

胃がんの場所や広がりを確認するには,バリウムを飲んで,がんの形や広がりをレントゲンで確認する検査を行います.これは検診で行われるバリウム検査と同じです.

胃がんの診断がついて,治療を決める際には,がんの深さやほかの臓器への癌の広がり,リンパ節転移の有無,離れた臓器への転移の有無を調べます.そのためには,CT検査を行います.CT検査はレントゲンを使って,体の断面を撮影する検査です.胸やお腹の中の細かな構造がよくわかり,異常を見つけることができます.これらの検査をすることで,がんの進行度,ステージともいいますが,それが決まります.

他には,大腸の内視鏡検査や造影検査で大腸がんが合併していないか,または胃がんがお腹の中に散らばってしまい,それが腸を狭くしていないかを確認することもございます.

PETという癌細胞へのブドウ糖の集積を利用して,遠い場所への転移を見つける検査をすることもございます.

胃がんは大きくなると粘膜から徐々に粘膜の下の層,筋肉の層,一番外側の漿膜(しょうまく)へと外側にむかって深く進んでいきます.外側の壁を破ってお腹の中に散らばってしまうことを腹膜播種といいます.播種というのは「種をまく」と書きますが,お腹の中に散らばってしまうと,腹水という液体がお腹にたまります.がんが胃の周囲のリンパの流れにのってリンパ節にとぶことをリンパ節転移といいます.また,血液の流れに乗って他の臓器に運ばれて,そこで増殖することを血行性転移といいます.たとえば,肝臓や肺などに転移することがあります.

胃がんの進行度

がんの深さが粘膜および粘膜の下の層にとどまるものを早期がん,筋肉の層より深いものを進行がんといいます.進行度,ステージはIからIVまで分類されています.早い段階のIから進行するにつれてII,III,IV期に進んでいきます.ステージIの方の治療は,内視鏡治療と手術治療がございます.ステージIIからIIIの方の治療は手術治療が中心になります.肝臓や肺,遠く離れたリンパ節などへの転移や,お腹にがん細胞が散らばった腹膜播種を認めるステージIVの方の治療は,化学療法を中心とした薬物治療が行われます.治療はガイドラインで決まっている標準治療をもとにして,患者さんの体の状態や年齢などを総合的に検討し,患者さんのご希望を聞いたうえで一緒に決めていきます.

早期がんの内視鏡治療

早期がんの中でも,特に胃がんの深さが一番浅い部分の粘膜にとどまるがんの中には,ある一定の条件を満たした場合,リンパ節転移の可能性が低いことが分かっています.その場合は内視鏡を使って,胃の内側からがんを切除する方法が適応になります.具体的には大きさが3cm以下で,分化型という比較的進行が穏やかなタイプのがんで,かつ潰瘍を伴わないがんが対象になります.手術と比べると体に対する負担が少なく,胃が温存されるため,治療後の影響が少ないことが利点です.切除の方法には,輪っかになったワイヤーをかけてがんを切り取る方法や,高周波ナイフという電気メスのような道具を使ってがんをはがしてくる,粘膜下層剥離術があります.一週間未満の短期の入院で治療が可能です.切除したがんは顕微鏡を用いた病理検査でさらに詳しく調べます.がんの深さや,きちんと取り切れたか,を確認し,がんが残っている可能性や,血管やリンパ管に転移している可能性が高い,と判断された場合は,追加の手術を検討いたします.

胃がんの手術における胃の切除範囲

胃がんの発生した場所や進行度によって切除範囲が異なります.代表的なものには,幽門側胃切除術,胃全摘術,噴門側胃切除術などがあります.

胃の出口部分の幽門を含む胃の2/3を切除する方法は「幽門側胃切除術」といいます.胃がんの発生は胃の中央から下部2/3に多く,胃がんの手術のなかでは幽門側胃切除術が最も多く行われています.胃切除後は食べ物の通り道を作りなおします.これを再建術といいますが,残った胃と十二指腸,あるいは小腸とつなげます。

逆に胃の入り口部分の噴門を含む胃を切除して,出口側の胃を一部温存する方法を「噴門側胃切除術」といいます.リンパ節転移のない,胃の上部に存在する早期がんに対して行われています.少しでも食べ物がたまる場所ができますので,胃を全部取ってしまう胃全摘術に比べると利点があります.例えば,体重減少や間食の必要性,下痢,ダンピング症候群(これは,食後におこるめまいや冷や汗などの症状ですが)が少ないという利点があります.ただし,胃から食道への消化液の逆流を防いでいた噴門がなくなることで,逆流性食道炎を起こす可能性があります.逆流を防止するつなぎ方の工夫や内服薬による調整がされております.

胃を全部切除するのが「胃全摘術」です.がんの広がりが広い場合や,いくつか多発している場合,胃の上部にかかる進行がん,他の臓器に食い込んでしまっている場合や,広い範囲にリンパ節転移がある場合に胃全摘術をおこないます.再建術は小腸を持ち上げて食道とつなぎます.胃全摘術では,食べた食事をためる場所がなくなってしまうので,一回の食事でとれる量が減ってしまいます.術後の体重減少や体力の低下が懸念されます.我々は当然,がんを完全に取りきることを最優先にしておりますが,術後の症状を考えて,できるだけ胃を温存すること目指して,手術の精度を追及しています.がんの正確な範囲を確認するために手術中に内視鏡検査を行ったり,術中に顕微鏡による迅速の病理診断を行うことで,可能な限り胃の温存につとめております.

胃切除後の障害について

術後の障害で一番気を付けなくてはならないのが,食後のダンピング症状です.ダンピングとは,ダンプカーが土砂を一気に投げ下ろすようなことを表す言葉で,食事が一気に小腸に流れることをイメージしていただけるとよいと思います.食後早期におこるダンピングと,後からおこるダンピングがございます.早期ダンピングは,食後30分くらいに起こります.手術をうける前は,胃に食べものが溜まって,少しずつ十二指腸,小腸に送り出していました.しかし,手術の後は,食べ物が急激に大量に小腸に入ってしまうと,動悸や発汗,めまいや脱力感などが出現します.これらは,食事を少しずつゆっくりと時間をかけて食べていただくことで予防します.食後2~3時間くらい経ってから起こる後期ダンピングは,血糖値を下げるインスリンというホルモンの過剰分泌により起こります.インスリンの作用により,低血糖症状が出て,脱力感,冷や汗,だるさ,めまい,震えなどが出現します.このような時は飴玉や氷砂糖,甘いジュースなどをとると血糖値が上がって,症状が改善します.

他には胃をつないだところが狭くなったり,潰瘍が出来たりすることがあります.また,残った胃に食べ物が残り,胃もたれの症状が出ることがあります.それぞれの症状や病態に合わせて,内服薬を調整することで治療を行っています.

術後は食事のとり方の工夫が必要です.一度に多くの食事がとれないので,例えば朝,昼,晩に加えて10時,15時におやつ,これを補食といいますが,補食を加えることで,食事を5回に分けてとるようにお勧めしております.我々の病院では,術後は管理栄養士がそれぞれの患者さんにあった栄養指導や,食事指導に力を入れております.専門の栄養士が術前・術後の入院中だけでなく,外来通院でも長期的なサポートを行っております.術後は定期的に外来で診察を行い,症状に合わせて栄養剤の調整や胃の機能を補助するための投薬を行ってまいります.

からだにやさしい手術治療

現在胃がんの外科手術は,大きく分けて開腹手術,腹腔鏡下手術,ロボット支援下の腹腔鏡下手術が保険診療で行われています.以前はお腹を大きく開けて手術を行う開腹手術が中心でしたが,近年は腹腔鏡による体への負担を軽減した手術が増えてきました.

進行癌に対しては,主に開腹手術が行われております.広い範囲のリンパ節転移や,他の臓器に食い込んでしまったようながんは,開腹手術で外科医の手でしっかりとがんの硬さを確認しながら行います.

早期のステージIの患者さんに対しては,腹腔鏡下胃切除術が推奨されております.腹腔鏡下手術は,手術による体へのダメージを最小限にした手術で,国内の臨床試験で,開腹手術と同等の安全性と,治療成績が証明されています.数ヵ所の小さな傷,5mmから10mm程度の傷ですが,そこから腹腔鏡という細長いカメラや細長い手術器具を出し入れしながら,モニター画像を見ながら胃を切除します.開腹手術の場合はみぞおちからおへそ付近までお腹を開けますので,それに比べると傷が小さいですから,術後の痛みが少ないこと,また出血も少ないという利点があります.開腹手術に比べて術後の体の回復が早いことがわかっています.手術中にお腹の中の臓器が外部の空気にふれなくてすむので,腸運動の回復が早いことや,腸が周囲の臓器や傷とくっついてしまう「癒着」が減少し,術後に腸がつまってしまう「腸閉塞」の頻度が減るという利点もあります.モニターで拡大された画像をみながら手術を行いますので,術者にとっても細かで繊細な手術が可能になりました.

岩手医大では腹腔鏡下手術を2005年に導入して,現在幽門側胃切除術,噴門側胃切除術,胃全摘術の全術式に対応しています.現在年間100例前後の胃癌手術のうち,70%以上を腹腔鏡下手術で行っております.

2018年から胃がんの手術にロボットを使用したロボット支援下腹腔鏡下手術が保険適応になりました.岩手医大では2013年に最初のロボットの胃切除を導入し,現在厚生労働省が規定する,基準をクリアした施設に認定されていて,トレーニングを十分に積んだ術者が手術を担当しております.ロボット手術とはいっても,もちろんロボットが自動で手術をするわけではなく,操作をするのは人間が行います.現在使用している「ダヴィンチ」というロボットの手術器具は,腹腔鏡手術で使用するまっすぐな手術器具に比べて,多数の関節を持っていて,体の奥深くでも人間の手のように複雑な動きが可能です.手ブレを補正する機能を備えているため,腹腔鏡の手術よりさらに緻密な動きが可能となりました.腹腔鏡手術とロボット手術の傷はほぼ同じで,安全性に関しても同等ですが,腹腔鏡と比較して合併症,とくに膵液瘻(胃の裏側にある膵臓へのダメージから,膵液という消化液がもれること)の減少が報告されております.

 

 

胃がんの化学療法

進行胃がんや再発胃がんの場合で手術だけでは取りきれないと判断された場合は,がんを小さくする目的で抗がん剤を中心とした化学療法を行います.ここ十年で新規薬剤が次々に開発され,抗がん剤だけでなく,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬なども治療薬に加わり,胃がん化学療法の選択枝は大幅に広がりました.現在ガイドラインでは,一次治療,二次治療,三次治療まで推奨される治療が提示されています.

<抗がん剤>

抗がん剤は,一次治療としては,ティーエスワンという飲み薬と,シスプラチンという点滴のお薬を中心が中心になりますが,がんの状態によっていくつかの薬を組み合わせて使用します.抗がん剤は,増殖力の強いがん細胞に対して効果をもたらす反面,正常細胞にも影響をおよぼすため,副作用が出ることがあります.たとえば,血液の成分をつくる骨髄というところの機能が抑制されることで,白血球や血小板などが減少することがありますし,脱毛や皮膚障害,また,吐き気や下痢などの消化器症状があらわれることがあります.これらの副作用に対して,白血球を増加させるお薬や,吐き気を軽減させるお薬などを使用しながら,患者さんの症状を少しでも軽くしながら治療を行っています.薬剤師や栄養士など,治療になれた専門のスタッフにもサポートしてもらい,チームで症状の緩和に取り組んでいます.治療は入院しながら行うこともありますが,多くは外来通院で行うことが可能です.

<分子標的薬>

がん細胞の増殖に関わる分子を標的としたお薬を分子標的薬といいます.正常な細胞も攻撃してしまう抗がん剤と異なり,標的となる細胞が限られているため,副作用が少ないのが特徴です.胃がんでは2割程度の方でHER2(ハーツー)と呼ばれるたんぱく質が,がん細胞の増殖に関わっています.治療前に病理の検査でそのタンパクが発現しているかを確認します.発現を認める場合には,一次治療において「トラスツズマブ」,商品名はハーセプチンというお薬ですが,このお薬を抗がん剤と併用することがあります.副作用としては,アレルギー症状や,心臓に影響をあたえることがあります.また,二次治療において,がん細胞のまわりに新しく血管を作るたんぱく質の働きを抑える「ラムシルマブ」というお薬を,パクリタキセルという抗がん剤と組み合わせて使用します.

<免疫チェックポイント阻害剤>

私たちの体は免疫機能がはたらいていて,免疫細胞ががん細胞を「自分ではないもの」と判断して攻撃をします.しかし,がん細胞は免疫から逃れようとして免疫細胞にブレーキをかけてしまい,攻撃から逃れることが分かっています.免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブは,このブレーキがかかるのを抑制して,患者さん自身の免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします.オプジーボというお薬が2017年から保険適応になり,現在胃がんの三次治療に使用されております.免疫チェックポイント阻害剤は,従来の抗がん剤や分子標的薬などとは異なる効果や副作用が現れることがございます.ステロイドなどの免疫抑制薬で症状をコントロールしながら,治療を進めております.

胃がん化学療法および手術の進歩により,これまで治りにくかった進行がんの患者さんでも,効果の高い化学療法と安全性の高い手術の組み合わせで治癒される方の割合も増加しています.治療法やその順序は個々の患者さんの病状や全身の臓器機能によって異なります.その方その方の生活にあった治療選択も重要です.ご本人のご希望を伺いながら,患者さんとって最適な治療方針をともに考えていくことに努めております.