内分泌代謝外科チーム
-Endocrinology and Metabolism surgery team-
チーフ
佐々木 章 (ささき あきら) |
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教授 | ||
スタッフ
梅邑 晃 (うめむら あきら) |
高橋 眞人 (たかはし なおと) |
熊谷 秀基 (くまがい ひでき) |
准教授 | 研究員 | 研究員 |
棚橋 洋太 (たなはし ようた) |
岩崎 崇文 (いわさき たかふみ) |
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大学院生 | 大学院生 | |
診療内容
- ・高度肥満症・甲状腺良性腫瘍・食道アカラシア・GERD・胃GIST・副腎腫瘍・鼠径ヘルニア
診療の特色
最先端の内視鏡外科手術
内視鏡外科チームは、1992年より小さな穴から内視鏡で観察しながら行う手術(内視鏡外科手術)を開始し、手術症例数は国内でもトップレベルです。日本内視鏡外科学会の技術認定医が皆様の最適な手術方法を選択し、体に負担が少ない最先端の手術を提供します。
内視鏡外科チーフ(佐々木章 教授)は、平成20年9月に横浜で開催された第21回日本内視鏡外科学会総会において、第1回大上賞を受賞しています。本賞は、日本内視鏡外科学会が故大上正裕先生の偉大な功績を永く顕彰するために設立されたものであり、わが国の内視鏡外科にたずさわる者にとって、最高の栄誉として評価されています。
高度肥満症に対する外科治療
肥満は、体重kg÷身長mの2乗で計算される体格指数(BMI)で評価されます。日本人における正常なBMIは18.5~25 kg/m²ですが、最近では日本においても食生活や生活習慣の欧米化により、肥満人口の増加が社会的問題となっています。また、肥満が原因で起こる病気の割合は、欧米人よりもアジア人においてより高いと報告されています。当院では、内科的な食事療法、運動療法などで減量が困難であり、肥満に関連した病気を持つBMI 35 kg/m²以上の患者様に手術を行っています。肥満度と患者様の健康状態に応じて、3つの治療法 (内視鏡的胃内バルーン留置術、腹腔鏡下調節性胃バン ディング術、腹腔鏡下胃スリーブ状切除術)から選択します。当院では、高度肥満症に対する腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を2014年4月より保険診療で行っています。
肥満外科手術とは?
肥満(体重過多)はあなたの生活や健康に影響を及ぼす可能性があります。肥満外科手術(減量手術)はあなたが健康的な体重に近づくための手助けをしますが、あなたの消化のシステムを変えてしまいますので、手術後に元に戻すことができません。手術を決断する前には、できる限り手術に関して理解しておく必要があります。
手術適応の条件
6か月以上の内科的治療によっても、十分な効果が得られないBMI 35 kg/m2以上の患者様で、肥満が原因と考えられる次のような病気がある場合<には、手術も治療の選択肢となります。
- ● 耐糖能障害(2型糖尿病、耐糖能異常)
- ● 高血圧、心筋梗塞、狭心症
- ● 睡眠時無呼吸やその他の呼吸器障害
- ● 脂質異常症
- ● 高尿酸血症、痛風
- ● 非アルコール性脂肪肝、肝機能障害
- ● 変形性関節症(膝、股関節) 、腰痛症
- ● 肥満関連腎症
- ● 月経異常
- ● 脳梗塞
美容上の目的で減量を考えている方、安易な減量を考えている方、医療者と信頼関係が築けない方、術前に禁煙が守れない方、術前の食事療法が守れない方、術後の定期通院が約束できない方、肥満外科手術チームにより手術が不適と判断された方につきましては、手術をお引き受けできません。
肥満外科手術に対する心構え
肥満外科手術の目標は、超過した体重の半分以上を減らすことです。これにより健康上の問題を改善または防ぐことができます。この手術は美容のために行われるものではありません。以下のことを心に留めておいて下さい。
- ● まずは、手術以外の内科的減量方法を試してください。
- ● 手術後は食生活を変え、より活動的に過ごさなくてはなりません。
- ● 多くの場合、体重は手術後徐々に減っていきます。
患者様の役割
手術が成功するかどうかはあなた自身にかかっています。あなたは次のことを守らなければなりません。
- ● 健康改善に努める。
- ● 自分の病歴について外科医と話し合う。
- ● 手術に備えるための指導にすべて従う。
- ● 栄養摂取、運動などの術後管理に関する指導に従うことに同意する。
肥満手術チームの役割
外科医は次のような仕事を行います。
- ● 健康改善に努める。
- ● あなたが手術可能な状態であることを見極める。
- ● 手術の危険性と利点を説明し、あなたの疑問に答える。
- ● あなたにとって最適な処置を行う。
- ● 順調に回復するよう経過を十分に観察する。
外科医とともにチームに加わるのは
- ● 内科医:体重を減らすための指導や現在持っている病気の治療を行います。
- ● 精神科医:体の変化に順応するお手伝いをし、手術前後にわたりお話し相手になります。
- ● 栄養サポートチーム:手術前後の栄養の取り方や食事指導を行います。
- ● 理学療法士:体重を減らすための運動について指導を行います。
可能性のある合併症
他の手術と同じ様に肥満外科手術にも術後に次のような障害を引き起こす可能性があります。
- ● 感染症
- ● 縫合不全(組織を縫合または吻合した場所から消化管液が漏れる)
- ● 腸閉塞(縫合した場所が狭くなる、腸が癒着し食べ物の通過が悪くなる)
- ● 肺炎などの呼吸器障害
- ● 出血(お腹の中、皮下)
- ● 下肢や肺における血栓
- ● 脾臓損傷
- ● 周期的な嘔吐
- ● 死(麻酔事故、合併症)
術前の栄養管理
術前4~6週間前から食事療法、運動療法、行動療法を開始し、手術の可否について最終的に判断します。原則として、術前は外来で3週間の食事療法を行い(フォーミュラ食1回を含む1,200~1,400 kcal)、初診時体重より約-5%の体重減少を目標とします。この期間に体重が増加した場合、術前の栄養指導を守れない場合には手術を中止します。手術前1週より入院で最終的な減量を進めて手術に備えますが(フォーミュラ食1回を含む1,000~1,200 kcal)、BMI 50 kg/m2以上の患者様は、手術合併症のリスクが高いので2週間の入院で減量後に手術を行います。
当院での肥満外科手術の種類
当院では、高度肥満症に対して3つの摂取制限手術・処置を行っています。おなかを大きく切って減量手術を行っている病院もありますが、当院ではおなかにあけた小さな穴から手術器具、内視鏡を入れ、その映像を見ながら 手術を進める腹腔鏡下手術という方法で、食物摂取制限を中心とした手術を行います。
1.内視鏡下胃内バルーン留置術
胃内バルーン留置術は、内科治療と外科治療の中間に位置します。通常の胃内視鏡で行う処置で、胃の中にシリコンでできた風船を膨らますことで、一度に食べられる量を制限し、少量の食べ物で満腹感が得られるようにします。
2.腹腔鏡下調節性胃バンディング術
胃の上の方に調節可能なバンドを巻いて、胃を締め付ける方法です。バンドは皮下に取り付けたポートを使って、膨らましたりしぼめたり調節でき、食べ物を通過する速度を変えることができます。バンドによって胃を上の小さな部分と下の大きな部分に分け、上の小さな胃の部分が食物で満たされると満腹感が得られます。
3.腹腔鏡下スリーブ状胃切除術
胃の約80%を取り、胃をバナナ1本位の大きさにする手術です。胃を小さくすることで一度に食べられる量を制限し、少量の食物で満腹感が得られるようにします。食物は通常通りに消化吸収されますが、胃を取ってしまうため手術後に元に戻すことはできません。
2015年3月現在、日本で一番多く行われている手術で、保険診療で受けられる手術はこの腹腔鏡下スリーブ状胃切除術のみです。その他の手術方法は自費診療となります。
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の成績
術後の体重変化
当院で2015年3月までに手術を行った高度肥満症45名の術後体重変化を示します。体重減少の推移は極めて良好で、術後1年で42.6 kgの体重減少が得られています。
肥満関連健康障害の改善・治癒率
肥満外科手術の目的は体重減少だけではなく、肥満関連健康障害の改善により生命予後を向上させることです。術後6か月以上を経過した患者様の肥満関連健康障害の改善・治癒率を示します。術前の平均健康障害数は6.5疾患に認められましたが、術後早期に改善または治癒が認められました。
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2型糖尿病に対する効果
特に肥満2型糖尿病患者25名では全例で改善が得られ、術後1か月で完全寛解44%(空腹時血糖˂100 mg/dl、HbA1c˂6.0%、糖尿病治療薬からの離脱)、部分寛解28%(空腹時血糖˂126 mg/dl、HbA1c˂6.5%)、改善28%(手術前に比較して空腹時血糖、HbA1c値が改善)となっています。
短期成績では、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術後の2型糖尿病改善は良好でした。内科治療に抵抗性を示す肥満2型糖尿病患者に対して寛解が予測される適切 な手術適応基準を設定することができれば、本手術はメタボリック手術として今後普及する可能性があると考えています。
日本肥満症治療学会「肥満外科手術実施」施設
肥満外科手術を行っている施設
これまでに肥満外科治療を受けた患者さんへ
【過去の治療データの調査研究への使用のお願い】
甲状腺良性疾患に対する内視鏡下甲状腺切除術
甲状腺の手術は、現在でも頸部(くび)を切って行うのが一般的ですが、頸部の傷が腫れて残る場合もあり、患者様の精神的負担は大きいものでした。当院では、甲状腺良性疾患に対して内視鏡を使用した手術を全国に先駆けて1998年から取り入れています。手術方法は、下着に隠れる乳房周囲の小さな穴から内視鏡を入れ、胸部から頸部の皮下に手術を行う空間を作り、甲状腺の手術を行います。費用負担については、保険診療が適用されます。
手術の特色
首を切らないで甲状腺を取る方法で、手術後の頸部症状が少なく、首に傷跡が残らないなど利点が多い手術です。
適応疾患
甲状腺腺腫、腺腫様甲状腺腫、バセドウ病など
治療のポイント
甲状腺は頸部にあり、通常では頸部(くび)を大きく切って手術が行われます。この手術を受けられた患者様の中には、頸部に残る傷跡や感覚障害などが長期的に問題となる場合もあります。この欠点を改善できるのが、先進医療として承認された内視鏡下頸部良性腫瘍摘出術です。
この手術方法では、下着に隠れる胸に5mmから12mm程度の小さな穴を3か所あけ、その穴から内視鏡器具を使用し、胸から頸部の皮下剥離を行います。この剥離した部分に二酸化炭素を入れると、甲状腺の手術が行える空間ができます。内視鏡による拡大視により甲状腺の血管、周囲の神経などは詳細に確認でき、安全に甲状腺腫瘍を取り出すことができます。
現在、色々な病気に対して、内視鏡観察下に手術が行われていますが、甲状腺疾患に関しては保険診療の適用となっていませんので、限られた一部の施設で手術が行われています(先進医療)。当院では、1998年より甲状腺良性腫瘍に対して本手術を行い、優れた実績を上げています。
効果
内視鏡下手術では、傷が小さいために痛みが少なく、術後4~5日で退院が可能です。また、頸部に傷跡が残らないために整容的な満足度が高く、患者様が頸部の手術を受けたという嫌悪感から解放され、精神的にも良い結果が得られる可能性があります。そして、従来の手術方法のように頸部を大きく切らないので、頸部の違和感、感覚障害や皮膚の引きつれなどの不定愁訴が少なく、利点が多い手術方法といえます。
単孔式腹腔鏡下手術
現在、おなかに数か所の穴をあけて、カメラでおなかの中を観察しながら手術を行う腹腔鏡下手術が色々な疾患で標準手術となっています。おなかを大きく切る開腹手術と比べて、体への負担や術後の傷の痛みが少なくて済み ます。当院ではさらに整容性を重視し、へそにあけた1か所の穴から手術を行う単孔式腹腔鏡下手術を行っています。1か所の穴からでは手術が難しい場合には、もう一つの穴を追加して手術を安全に行います(reduced port surgery)。
脾臓摘出術の場合
腹腔鏡下手術(標準手術) |
単孔式腹腔鏡下手術 | reduced port surgery |
適応疾患
胆嚢結石症、食道アカラシア、逆流性食道炎、胃粘膜下腫瘍、脾臓疾患、副腎疾患、急性虫垂炎、大腸癌、鼠径ヘルニアなど
利点と欠点
利点 | 欠点 |
・整容的に優れている ・傷の痛みが少ない ・早期離床 ・退院が可能 ・術後の癒着が少ない可能性がある |
・1つの穴から手術を行うので難しい ・長期的な成績が出ていない |