岩手医科大学医学部 外科学講座

内分泌外科診療について

岩手医科大学病院の外観

岩手医科大学外科学講座では、内分泌外科診療において先進的な手術手技、安全かつ患者様の治療を完遂するまで継続的に診させて頂くことをモットーに診療を行っております。また、内分泌疾患として以下の臓器のあらゆる疾患に対して様々な診療科、メディカルスタッフや地域医療施設と連携して治療を行って参ります。当科では、副腎疾患、甲状腺疾患、副甲状腺疾患に対して外科治療を含めた集学的治療を提供しております。

副腎疾患

副腎腫瘍

副腎腫瘍は、非機能性腫瘍と副腎から分泌されるホルモンを過剰産生する機能性腫瘍に分けられます。非機能性腫瘍の場合は、経時的な増大が認められる場合には手術により確定診断を得る必要があります。一方、機能性腫瘍は以下の表で示す通り一般的に3種類のホルモン産生腫瘍があり手術によりホルモンを正常化する必要があります。副腎悪性腫瘍は原発性と転移性に区別されますが、手術適応は患者様の病状に応じて決定することになります。

 また、副腎腫瘍は副腎腫瘍の精査を本来目的としていない画像検査などで指摘される偶発腫瘍も比較的多く報告されています。その半数は非機能性腫瘍で、以下の通りとなっています(一城貴政,上芝元:本邦における5年間の継続的副腎腫疫学調査―最終報告―厚生労働省研究補助金難治性疾患克服研究事業副腎ホルモン産生異常に関する調査研究、平成16年度研究報告書より)。

 よって、疾患に応じて外科、糖尿病・代謝・内分泌内科、泌尿器科などと連携して治療を行っていきます。

副腎腫瘍

非機能性腫瘍

非機能性副腎腫瘍は良性から悪性まで幅広く存在しますが、最終的な治療方針として摘出術であることは概ね異論がないところです。一部の悪性腫瘍や摘出による病理学的診断が不要と判断される場合には、全身療法や経過観察を提示する場合があります。非機能性腫瘍の中でも骨髄脂肪腫は比較的多く経験され、柔らかく血流豊富な腫瘍でもあるため増大傾向の場合には手術を提示しています。

内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドライン2022年版は以下をご覧ください。

機能性腫瘍

機能性副腎腫瘍は、副腎で主に産生されるホルモンが過剰に分泌される腫瘍を言います。代表的なものとして、コルチゾールを過剰に分泌しているクッシング症候群、アルドステロンを分泌している原発性アルドステロン症、アドレナリン・ノルアドレナリンを分泌している褐色細胞腫があります。これらの検査は、画像診断や血液サンプリングをもとに疾患と局在を確認した上で手術を計画します。

原発性アルドステロン症

機能性副腎腫瘍の中では最も多い疾患です。
・アルドステロンの過剰産生により高血圧、低カリウム血症、筋力低下、周期性四肢麻痺が見られます。
・非常に小さな腺腫からもアルドステロンの過剰産生により高血圧をきたすこともあり、高血圧の患者さんでは精査を考慮する必要があります。
・術後は上記の症状が改善し投薬を減らすことが出来ることも多いですが、病悩期間が長い場合には腎機能障害を併発していることもあるので注意が必要です。

クッシング症候群

・コルチゾールの過剰産生で起こります。
・ステロイドホルモンが慢性的に過剰な状態となるため、高血圧、糖尿病、免疫力低下、多毛、皮膚線条、中心性肥満や骨粗しょう症など多彩な症状が現れます。
・術後は相対的なステロイド低下状態となるため、ステロイド補充療法が必要となります。ステロイドホルモンの欠乏は副腎不全となり命に関わることがあるので術後の投薬についても注意が必要です。

褐色細胞腫

・副腎髄質由来の腫瘍でアドレナリン・ノルアドレナリンを過剰産生します。
・高血圧、頻脈、頭痛、便秘、高血糖などの症があります。
・運動や飲酒、ストレス刺激などにより強い症状、場合によってはクリーゼという命に関わる状態になります。
・術中管理が難しく、麻酔科や糖尿病・代謝・内分泌内科との連携が重要になります。
・頻度は高くありませんが、悪性のこともあり経過観察を要します。
・両側性では遺伝性疾患の可能性があるため、場合によっては遺伝子検査や他臓器の腫瘍性病変がないか検索する必要があります。

副腎腫瘍に対する手術

副腎の手術は左右異なるため、その解剖学的位置が重要です。副腎は腎臓の上に位置する約2~3cmの小さな三角形の臓器で、左右1対ずつあり、人が生きるために必要なホルモンを分泌するとても大切な臓器です。右側の副腎は肝臓の背側に位置し、内側に下大静脈があることと副腎の静脈が下大静脈に流入することから血管処理に注意が必要です。一方で、左側の副腎は、胃・膵臓・脾臓・腎臓・結腸に囲まれておりこれらを剥離して視野を大きく取る必要があります。

当科では、副腎腫瘍に対して開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術のいずれかを患者さんの病状や手術リスクに応じて提供させて頂きます。

開腹手術

大きな腫瘍、もしくは他臓器合併切除を要する患者さんが適応となります。一方で、褐色細胞腫や副腎近傍に発生する傍神経節腫についても術中異常高血圧や出血制御困難を理由として開腹手術を提示することがあります。

腹腔鏡下手術

当科でこれまで多くの患者さんに対して本術式を提供してきました。小さな手術創で確実な手術を行ってきております。現在、おなかに数か所の穴をあけて、カメラでおなかの中を観察しながら手術を行う腹腔鏡下手術が色々な疾患で標準手術となっています。おなかを大きく切る開腹手術と比べて、体への負担や術後の傷の痛みが少なくて済みます。当院ではさらに整容性を重視し臍の1か所の穴ともう一つの穴を追加して手術を安全に行います(reduced port surgery)。

腹腔鏡下手術

ロボット支援下手術

副腎腫瘍に対する手術支援ロボットを使用した手術が保険収載されています。当院では3台の手術支援ロボットがあり、疾患に応じて本術式を提示させて頂きます。基本的には腹腔鏡下手術と同様ですが、一般的にいかのような違いがあると言われています。手術の安全性を担保するために(操作困難,出血,他臓器損傷など),開腹手術へ移行する可能性があります。

ロボット支援下手術の利点

・低侵襲
・創が小さい
・術後回復が早い
・早期退院が可能
・アームの柔軟性が高く、縫合や手前への操作が容易である
・カメラが固定されるため術野のブレがない

ロボット支援下手術の欠点

・触覚が現時点ではない
・視野の確保が難しい(内臓脂肪や癒着が多い場合)
・道具の出し入れに時間がかかるため出血した際に、止血操作が困難になる可能性がある

Hugo

Hugoについては以下のHPをご参照下さい。

Da Vinci Xi

Da Vinci Xiについては以下のHPをご参照下さい。

手術手技について

右側副腎腫瘍の場合

手術手技について

肝臓を圧排すると、背側に副腎が見えています。

手術手技について

副腎を後腹膜脂肪から剥離しています、写真右側に下大静脈があります。

手術手技について

中心静脈をクリップで処理しています、この操作でホルモンの血中への流入は遮断されます。

左側副腎腫瘍の場合

手術手技について

脾臓や結腸を展開して背側の左副腎を露出させます。

手術手技について

後腹膜脂肪と副腎を剥離していきます。

手術手技について

中心静脈が太い場合には自動縫合器を用いて安全に血管切離を行います。

甲状腺疾患

甲状腺疾患には機能性疾患と腫瘍性疾患があります。機能性疾患では内服治療と外科治療をメインに行いますが、昨今悪性腫瘍の治療で用いられる免疫チェックポイント阻害薬の有害事象として甲状腺機能異常を認めることもありますので当院のような大学病院では甲状腺機能異常を的確に治療できる当科や糖尿病・代謝・内分泌内科での治療が安全であるものと考えています。

機能性疾患

甲状腺機能低下症

機能低下を来たす疾患として橋本病が最も多く、ヨード過剰摂取や放射線治療後、ヨウ素欠乏などがあります。上述した免疫チェックポイント阻害剤によるものも最近増えています。甲状腺機能低下症は永続性の場合と一過性の場合があります。また、中枢性や甲状腺ホルモン不応症のこともあります。

甲状腺機能亢進症

機能亢進を来たす疾患としてはバセドウ病が最も多く、薬物療法、外科治療、放射線治療の中から適切な治療を選択します。抗甲状腺薬は、有害事象が多いこと、催奇形性や小児での重症肝障害の報告などもあるため、速やかな根治治療が望まれます。放射線治療は若年女性に対して躊躇されることや将来的な甲状腺機能低下の可能性から当科では内視鏡下甲状腺亜全摘術を提示しています。一過性の甲状腺機能亢進症として亜急性甲状腺炎や免疫チェックポイント阻害剤による有害事象の初期などがありますので、適宜対応させて頂きます。

粘液水腫性昏睡・甲状腺クリーゼ

甲状腺機能低下、亢進に伴う命に関わる状態です。いずれにしても甲状腺機能のコントロール不良な状態が長く続いた場合に発症しますので集中治療を要します。当科のみならず多くの診療科と協力して治療させて頂きます。

甲状腺の機能性疾患やホルモン不応症についてはこちらもご参照下さい。

甲状腺腫瘍

良性腫瘍

甲状腺にできる良性腫瘍には、濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫や嚢胞などがあります。通常の手術適応は3cmを越えるものか、嚥下困難や気道圧排症状などを認める場合としています。経時的な増大や悪性を否定できない場合には手術を提示することもあります。内視鏡下甲状腺切除術の良い適応となりますので、頚部に傷を作らずに手術が可能な場合が多いです。手術を行わない場合でも経過中に悪性を疑う病変に変化することもあるため、経過観察が必要です。

悪性腫瘍

悪性腫瘍は、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、低分化癌、未分化癌、その他(悪性リンパ腫など)に大別されます。乳頭癌と濾胞癌をあわせて甲状腺分化癌と呼称しています。乳頭癌が全体の90%以上と最も多く、次いで濾胞癌約5%、髄様癌と未分化癌がそれぞれ1%強となっています。悪性リンパ腫は橋本病に続発する場合が多く、血液内科との連携が必要になります。切除可能な場合には手術を第一選択としますが、未分化癌の場合には局所での血管・気管浸潤や皮膚への露出などから手術が難しい場合があります。薬物療法や放射線治療を含めて集学的治療を提供させて頂きます。

甲状腺疾患に対する外科治療

バセドウ病に対する内視鏡下甲状腺亜全摘術と良性腫瘍に対する内視鏡下半側切除術

甲状腺の手術は、現在でも頚部(くび)を切って行うのが一般的ですが、手術の傷が腫れて残る場合もあり、患者様の精神的負担は大きいものでした。当院では、甲状腺良性疾患に対して内視鏡を使用した手術を全国に先駆けて1998年から取り入れています。手術方法は、下着に隠れる乳房周囲の小さな穴から内視鏡を入れ、胸部から頸部の皮下に手術を行う空間を作り、甲状腺の手術を行います。費用負担については、保険診療が適用されます。

手術の特色

頚部を切らないで甲状腺を取る方法で、手術後の頸部症状が少なく、首に傷跡が残らないなど利点が多い手術です。

適応疾患

甲状腺腺腫、腺腫様甲状腺腫、バセドウ病など

適応を除外する場合

バセドウ病の場合:両側の甲状腺容積が100mLを越えている場合は、手術時間の延長、出血量の増加や開創手術への移行の可能性があるため内視鏡下での手術は難しい可能性があります。

手術手技について

バセドウ病の甲状腺腫大(椎骨前面の黒い楕円が気管、その回りが甲状腺です)

手術手技について

CTによる甲状腺容積の測定(この写真で72mL程度でした)

甲状腺腫瘍の場合

片側の甲状腺容積が50mLを越えている、もしくは頚部を後方伸展しても腫瘍の足側が鎖骨の下(縦隔)に落ち込んでいる場合には内視鏡下手術が困難な場合があります。また、悪性腫瘍では原則頚部切開による手術を提示させて頂きます。

実際の手術

バセドウ病の場合:両側の甲状腺容積が100mLを越えている場合は、手術時間の延長、出血量の増加や開創手術への移行の可能性があるため内視鏡下での手術は難しい可能性があります。

手術手技について

ポートは胸部から3本挿入して頚部へアプローチします。

手術手技について

甲状腺を露出し、バセドウ病の場合には片側ずつ、腫瘍の場合は片側のみ切除を行います。

手術手技について

甲状腺の背側で反回神経を確認して切除を行います。

手術手技について

バセドウ病の場合には残存甲状腺重量を確認します。

手術手技について

バセドウ病の場合には残存甲状腺重量を確認します。

手術手技について

切開した前頚筋を縫合閉鎖して、ドレーンを留置して手術終了となります。

術後経過と利点

内視鏡下手術では、傷が小さいために痛みが少なく、ドレーン抜去を含めて術後4~5日で退院が可能です。頚部に傷跡が残らないために整容的な満足度が高く、患者様が頚部の手術を受けたという嫌悪感から解放され、精神的にも良い結果が得られる可能性があります。そして、従来の手術方法のように頸部を大きく切らないので、頸部の違和感、感覚障害や皮膚の引きつれなどの不定愁訴が少なく、利点が多い手術方法といえます。

頚部切開法による甲状腺手術

頚部切開法による手術でも、当科では整容面を考慮し必要最小限の切開に留めながらも根治性を確保した手術を提供できるよう努めています。頚部切開法で行う場合は、大きな甲状腺良性腫瘍、出血リスクの高い腫大したバセドウ病と悪性腫瘍になります。悪性腫瘍の中でも甲状腺癌の場合には、甲状腺全摘が必要かどうかとリンパ節郭清の程度に応じて切開創の大きさが異なります。

手術手技について

甲状腺左葉に腫瘤あり(乳頭癌)

手術手技について

甲状腺癌のリンパ節転移

手術手技について

甲状腺手術の合併症・
反回神経麻痺
・出血
・低カルシウム血症によるテタニー
・創感染 など

反回神経麻痺は、嗄声(かすれ声)やむせの原因となるため、術中モニタリングを行っています。電気刺激で声門が反応する特殊な気管内チューブ(EMGチューブ)と神経刺激装置による微弱な電気刺激で必ず反回神経を確認しています。

手術手技について

実際当院で使用している神経刺激装置

副甲状腺疾患

副甲状腺疾患のうち、手術適応となる者は副甲状腺機能亢進症があります。副甲状腺からはPTHと呼ばれるホルモンが産生されており体内のカルシウム代謝を調整しています。機能亢進症の場合にはPTHが高値となるため、高カルシウム血症による様々な症状が出現します。

高カルシウム血症の程度が進むと、多尿、口の渇きが出現し脱水になり、腎臓の機能も低下します。高度のカルシウム上昇を来すと、意識障害などを伴った生命に関わる状態となることもあります。PTHは骨からカルシウムを動員するため骨の破壊が進行し骨粗しょう症となります。また、骨から放出されたカルシウムは腎臓に沈着するために尿路結石や腎障害を生じることも比較的高頻度に見られます。

原発性副甲状腺機能亢進症の原因として、副甲状腺の腺腫、過形成、癌がありますが、多くは良性です。一方で、本疾患は遺伝性疾患(多発性内分泌腺腫症:MEN)の一症状として出現することがありますので適切な検査を行いその可能性について検討することもあります。

手術手技について

副甲状腺シンチグラフィーによる病変の同定

手術手技について

甲状腺癌のリンパ節転移

本疾患に対しては、局在が明らかであれば頚部に小切開をおいて摘出術を行います。まれに甲状腺内に存在することや複数の腺腫が存在することがありますので、状況に応じて適切な長さの切開で手術を行います。

内分泌外科診療のご相談

内分泌外科診療についての治療にお悩みがある患者様のご相談、外科治療の提示などについて専門外来を毎週火曜日、水曜日に行っております。詳しくは、岩手医科大学附属病院外科外来もしくは当科へご連絡下さい。